Alternative Adventures Zipline

このジップラインの親方は売り込みの手腕と心理学を駆使して、人々が恐怖心を克服する手助けをしています

Michael Hingston

Travel Alberta

Mar 26, 2019 - 5分

私が立っているのは特注のシャレーのてっぺん。高さは地上約61m。あの手この手で私に一歩を踏み出させようとしているのはダレル・ボサート。ボサートはジャスパー国立公園から出てすぐのところにあるオルタナティブ・アドベンチャーズのオーナー兼スタッフ。私の足がセメントのようにガチガチになって動かない原因は、彼が運営する「スーパーヒーロー・ジップライン」。過去10年以上にわたり18,000人以上に空中を滑り降りる楽しさを提供してきた実績があるアクティビティだと言われても、怖いものは怖い。彼にはそのように正直に伝えたのですが。先ほどのオリエンテーションのとき、利用者の優に半数はどこかの時点で、「ああ、やっぱり私には無理」と言い出すと聞きましたが、実際に今、他にも仲間がたくさんいると聞かされたところで私には何の慰めにもなりません。

私のように怖じ気づいている観光客に対して、建物からジャンプして頭から飛び込んでいくように説得する役目を担うボサートの仕事には、売り込みの手腕と心理学を少しずつ心得ていることが求められます。運がよいことに、彼は生まれつきおしゃべりで、人前に出ると生き生きしたり、話の山場に差し掛かると手をたたいて盛り上げたりするタイプの人間です。彼が言うことは何でも信じてみることをおすすめします。ジャスパー生まれのボサートが、後にオルタナティブ・アドベンチャーズとなるサービスの青写真を初めて描いたのは1970年代のこと。それは彼が炭鉱で働いていた時代です。それ以来、他の人にも空中を滑降する楽しさを味わってもらうことが彼の目標になりました。

しかもボザートにとっては、お金儲け以上の意味があります。それは彼の個人的な体験と関係しています。ボザートは若い頃から、深刻な高所恐怖症、それもかなり重度なものに悩まされていました。「僕よりも3人の妹たちのほうがスキーを覚えたのは早かったほど。なにしろあのスキーリフトに乗るのが怖くて、リフトから最初に落ちるのは絶対に自分だと思っていたからね」とボサートは言います。徐々にではあるものの、友人たちに支えられながら、ボサートにも挑戦する気持ちが芽生え、やがてアウトドアスポーツを楽しむまでになっていました。特にハンググライダーが好きで、仲間たちと一緒に近くのアサバスカ・タワーから滑空を楽しんでいたそうです。ハンググライダーの腕前が上がるにつれ、ボサートは空中を飛ぶあのスリリングな感覚を他の人にも味わってもらいたいと考えるようになりました。とはいえ、2人乗りのグライダーを体験するために一人一人を上に連れて行くのはあまりに重労働でした。そんなときに思いついたのがジップラインで、そのアイデアが頭の中から消え去ることはありませんでした。

Alternative Adventures Zipline

ジップラインのスリルを満喫するために、ベルトをしっかりと締めて。次はきっと、ハンググライダーに挑戦したくなりますよ。

Travel Alberta | Ryan Bray

私が怖がっているって?

オルタナティブ・アドベンチャーズのキオスクに戻り、免責同意書にサインするときでさえも、私の緊張感はピークに達し、神経質になっていました。彼の年季が入った白いバンの隣でグループの他の人を待っている間(そのバンでは、私たちを乗り心地の悪さに慣らそうと、ボサートは丘をあがる際に意図的にカーブしたり、車の後部を左右に振ったりしていました)、ボサートは空に浮かぶいろんな種類の雲を指差して、雨の予想をするうえでそれぞれの雲がどのような意味を持つかを説明してくれました。私は興味深げにうなずいていましたが、本当は上の空でした。

丘の頂上に到着すると、ボサートは私たちを階段のところまで案内し、シャレーのてっぺんに出るようにうながしました。頭の上のワイヤーはコースの一番低いところに向かって斜めに張られていて、そこにはチェック柄の巨大なフラッグが待っていました。私たちの目の前には下り坂の斜面があり、2つの白い印が見えます。1つはスタート地点を表す印で、もう1つの印に差し掛かったら、そこから飛び出します。私と同じグループの人たちは、装備を身につけ、紐を調節してもらい(緩いほど、浮遊感覚を味わえる)、飛び出していきます。私はこんな風にありったけの口実を並べてぶつぶつ言っていました。「誰もがジップラインに向いてるなんて思ったら大間違い。私は向いていないタイプなだけ。私が飛ぶのをやめても誰にも関係ないし、グループの他の人たちにばかにされることもない」と。

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結局、恐怖心を押し殺して、宙に向かって飛び出すには、ダレル・ボサートに背中を押してもらう必要があるのです。

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やればできる。恐怖心を乗り越えて、飛ぶのだ

私は最終的に問題をこのようにまとめるに至りました。「最初は恐怖を感じる。そして私はそれをコントロールできない」と。その後は、本当に大丈夫なのだと確信を持てるようになり、それどころかたぶん楽しいのだろうとさえ思えるようになりました。私はわずか2秒間の恐怖にも耐えられない人間だったのでしょうか。たったの2秒なのに。まるでこれからインフルエンザの予防接種を受けようとしている我が子に話しかけているようでした。痛いかもしれないけれど、すぐ終わるよ、と。

ボサートはもちろん、最初から私の恐怖心を読み取っていていたし、私のような人間を何年も相手にしてきています。公園が一般公開される前、彼は友達を何人かジップラインに連れて行きました。そのとき、仲間の1人が直前でパニックを起こしたのです。「その時、その瞬間にその場で何かを言わなければならなかったんだけど、何も言えなかったんだ」とボサートは前に語っていました。ジップラインの状況に人の体と心がどのように反応するかについての「完璧な」説明と、パニックに陥っている人に優しく案内する方法を生み出すのに数年かかったそうです。ボサートはこう話します。「真実を考え出さざるを得なかった。このような場所で嘘をついたら、その人達は家に帰ってしまう」。

シャレーのてっぺんにいる私の方に歩いてきて、緊張でガチガチになった私の肩に手を置いたとき、彼は完全に心理学者モードに切り替わっていました。屋根の上にいるのは私たち2人だけ。風が吹いてきたように感じます。ボサートは視線を合わせながら、「あなたはこれから、『戦うか逃げるかすくむか反応』を体験します。それはあなたの心の一部ですが、あなたではありません」と言いました。彼は私にそっとハーネスをつけると、私がハーネスを信頼できるようにするために、ハーネスを少し引いてみるように言いました。一度に片足ずつ、足を上下に動かすように私にうながし、そしてこう言いました。自分の力だけで何かをしたいと思うのは人間の常だけれど、今あなたと私はチーム。これを成功させるには、お互いがお互いを必要としているのだ、と。私は深呼吸をして呼吸を落ち着かせると、どういうわけか1つ目の白い印にためらいながらも近づいていきました。ボサートは私の真後ろにいます。「これに集中して。いますべきことはたった1つ」と彼は言いました。

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あとは台から飛び出して空中に浮かべば、スーパーヒーロー・タイムの始まりです。

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こぼれる笑みをこらえる

ここまできたら、台のてっぺんの端にある2つ目の印まで走っていき、空を飛ぶ以外の選択肢は残されていません。だから、そうしました。

滑り降りているときのことははっきりいってよく覚えていません。でも、一番低いところでくるくる回ってぶら下がっているゴールにたどり着いて、身に着けていた装備を外されたとき、満面の笑みを浮かべていたことは覚えています。そのとき、スタッフのトランシーバーから雑音とともにボザートの声が聞こえてきました。「スーパーヒーローの仲間入りおめでとう。乗り心地はどうだった?」

それはそれは爽快でした。